ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

chiisanamachi

114文化の継承は地区住民の結束の根底になっている。山間の傾斜地で、平坦な農地をもたないという過酷な自然条件の中で、「ちぃじがき」と呼ばれる自然石を積み上げた石垣と段々畑が小さな農業を守ってきた。コンニャクや蕎麦の栽培、養蚕、炭焼き、紙漉きなどを生業として営々とした暮らしがあった。冬の日は落ちるのが早い。地元の婦人方で運営される那須庵に着いたのは、午後4時を過ぎていただろうか。山間地なので冷え込み暗くなりかけていた時刻だった。寺崎さんは群馬県ではかなり名が通った著名人のようである。営業時間(土・日・祝祭日の午前11時~午後4時)を過ぎても御婦人たちにもてなされ、ざるそばをいただくことになった。どの家庭にも石臼があり、「蕎麦が打てなければ嫁にもいけぬ」という所だという。婦人方が打つ蕎麦はプロ顔負けの味である。美しい風景の中で、厳しい自然環境と共存してきた伝統や文化、素朴で温かい集落の生活を垣間見たひとときであった。高崎駅に着いた時は、もうトップリと日は落ちていた。伊藤さんからの電話からはじまった一連の出会いは、たくさんの収穫を得た※10。思い切って出かけてほんとうによかったと思った。人との出会いも、心地よい時を過ごすのも、自分から働きかけない限りできないことであることを改めて感じた―