ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

chiisanamachi

84たちは盛んに筑波山に登ったようだ。村人たちにとって、重税と兵役で苦しめられていた時代に、一つの楽しみがあった。春は桜の咲くころ、秋はもみじで山が紅くなるころ、関東各地の人たちが筑波山に押しかけ、男の神・女の神を祀り、盛大にかがり火を焚いて酒を飲み歌をうたって夜通し遊び明かした。「カガイ」と呼ばれる行事である。トントコ、トントコ太鼓が叩かれ、ピ-ヒョロ、ピ-ヒョロ笛が吹かれた。火はパチパチはじけて炎は天をもこがす勢いであった。酔いがまわるにつれて踊りも最高潮、そして若い男が女に声をかけ意気投合する…。若い未婚の男女だけではない。高橋虫麻呂という常陸国府の役人がいくつかの歌を残している※5ように、未婚・既婚、職業・職位の別なく、さまざまな男女が自由に夜を楽しんだのである。このカガイというのは、歌垣であり「蛮人の歌の会」の意味だという人もあり、「かがり火」がなまってカガイになったという人もいる。場所についても、男体と女体の間、中腹の神社付近など、はっきりしない。※5 「わしの住む 筑波の山の もはき津の その津の上に あどもひて おとめおとこの ゆきつどひ かがうカガイに 人妻に われも交はむ わが妻に 人もこと問え この山を うしはく神の いにしえよ いさめぬ行事(わざ)ぞ きょうのみは めぐしもな見そ 言もとがむな」 (万葉集巻九)―ワシの住む筑波山のモハキ津(地名)のあたりで、若い男女が連れだって集まり、歌をうたって楽しむカガイに自分もやってきた。さあ私も人妻に近づこう。私の妻に他の男も声をかけるがよい。この山を治める神が昔から許していることだ。きょうだけは私の妻に他の男が言い寄っても、かわいそうだとみてくれるな。また私が人妻と仲良くしても、決してとがめてくれるなよ。